病院を選ぶときのちょっとしたヒントです。今回はお忙しい40代から60代の方向けのお話です。

(1)

基本的にまだまだ体力があるこの年代の特徴は「とにかく忙しい」という事です。
待合室でのんびりと何時間も待たなくてはならない、そんな事態は極力避けたいものです。
慢性的な病気、たとえば高血圧や高コレステロール血症であればたいていの診察は簡単な問診だけで終わります。
時間にして数分です。
あらかじめ数分と分かっている診察のためにあなたは何分待つか? という問題なのです。
必要なのは診察までの待ち時間だけではありません。
診察のあと会計までの待ち時間、薬局まで移動する時間、薬局で薬が出てくるまでの時間、それらにあなたはどれだけかけられますか?

もう少し問題を整理してみましょう。(2011年9月16日)

あなたが割かなければならないのは以下の時間です。

1)病院に行くまでの時間
2)受付から診察までの時間
3)検査までの時間
4)検査の結果が出るまでの時間
5)診断について説明を受けて、必要な薬を処方されて診察が完結するまでの時間
6)薬を受け取るまでの時間
7)会計が終わるまでの時間
8)病院から帰るまでの時間

よく考えなければならないのは1)と8)です。
「病院に行くと何かと時間がかかる」とこぼす人に話を聞いてみたら病院滞在時間よりも通院時間の方が長かった、というのはよくある事です。
それまでの主治医が転院したからわざわざ遠くの病院まで通っているという人は結構多いです。
特に理由はないけれども人に勧められたから何となく遠くの病院に通っているという人も少なくありません。
その距離と時間があなたの治療のために本当に必要なのかどうか、もう一度考えてみましょう。
もし判断に困れば正直に主治医に訴えればいいのです、「通うのが大変です」と。
もしその病院での治療が絶対的に必要なら「命にかかわる事だからがんばって通ってください」と言われるでしょう。
しかしほとんどの場合は「近くの病院で大丈夫ですよ」と言われるはずです。(2011年9月21日)

診察時間が毎回数分で終わる事が分かっているのであれば、通うべき病院は間違いなく職場の近くが便利です。
自宅の近くではおそらく平日の診察時間に行く事は難しいでしょう。
高血圧や糖尿病などの慢性疾患は薬を2、3日飲み忘れても自覚症状が出にくいのが特徴です。
ついつい薬をもらいそこねて、それでも特に不具合を感じずそのまま薬をやめてしまうという例が実際かなりの頻度であります。
自分の健康を守るためには「仕事がどんなに忙しくても薬だけは取りに行ける」病院を選択する事が大切です。

たとえば自宅が明石で職場が神戸駅だとします。
その場合に三宮元町の病院を選ぶのはあまりいい選択ではありません。
仕事のあと自宅と逆方向に向かうのは気が進まないものです。
このちょっとした面倒臭さが今後あなたの健康に重大な影響を及ぼすかもしれません。
ベストは職場と駅を結ぶ線上にある病院です。 (2011年9月28日)

(2)

もちろん通院するのにある程度の距離が必要な場合もあります。
病気によっては待合室で知り合いに会いたくないものです。
家からも職場からもなるべく離れた病院に行きたい、そういう時にはより一層慎重に病院を選ぶ必要があります。
その病院に毎週通わなければならなくなった時に通院が可能かどうか、をまず考えてみましょう。
自宅が明石で職場が神戸駅の場合、大阪の病院を選んでしまうと2回目以降の通院は現実的に無理だと思います。
この場合は三宮あたりがベストではないでしょうか。(2011年9月30日)

つまりコンプレックスに関わる病気の時です。

少し話が変わるのですが、念のために書いておきましょう。
当クリニックにはお尻の病気の患者さんが多く来られます。
うつ病の薬も処方しています。
勃起不全の薬も扱っていますし、男性の薄毛の薬もお出しします。

当クリニックではそういった症状の患者さんは全く珍しくありません。
スタッフにとっても、もちろん私にとっても、決して特別な事ではありません。
問診でコンプレックスに関わる事に触れられるのは、誰しも気が進まないものです。
しかし絶対に信じて欲しいのです。
私たちがプライベートの場で患者さんの病気を話題にする事は全くありません。
なぜなら私たちにとって全くの日常ですから。 (2011年10月3日)

さて、話を元に戻しましょう。次に問題になってくるのは「受付から診察までの時間」です。
ごくごく単純に考えればその時間は「患者一人当たりの診察時間」×「患者の数」です。
しかし病状によって診察時間が変わってくるのが難しいところです。

待合室に5人いても、全員が薬だけ受け取りに来た患者さんならあなたは10分後には診察を受けられるでしょう。
待合室に誰もいなくても、診察中の患者さんの病状が複雑でややこしければあなたは30分以上待つ事になります。
ここで鍵を握るのは医師の臨機応変の判断能力です。

便秘の悩みで来られた患者さんの場合、たいていの場合は30分程度の問診が必要になります。
お尻の病気によっては診察室で簡単な処置が必要な場合があります。
簡単とは言っても小さな手術ですから10分や20分は必要です。
さあ、今目の前に便秘相談の患者さんがいる。
次に待っている患者さんも、問診票を見ると処置が必要となる可能性が高そうだ。
さらにそのあとに薬だけの患者さんが何人か続いている……。
こういう場合、患者数そのものよりも医師がどう判断するかが待ち時間の長さを左右するわけです。

とすると最初に書いた数式はこう書き換えるべきかもしれません。

「混雑具合」÷「医師の状況判断能力」 (2011年10月5日)

次は「検査までの時間」と「検査結果が出るまでの時間」です。
これは病院の機能が問われる部分です。
前者は医師が出した検査オーダーがどこをどう巡って検査部署に届けられるかといういわゆるソフト面を、後者は検査機器の処理能力のいわゆるハード面を表します。
ハード面では新しい病院が有利です。
しかし新しい病院ではソフトが確立していない事が多くて、オーダーから検査結果までの時間短縮に結びついていない事例が往々にして見られるので要注意です。

しかしこういった診察を取り巻く環境よりも、実は医師の判断能力がここでも時間に大きく影響します。
たとえば診断能力と効率性が低い医師は患者さんを目の前にして初めてカルテを開きます。
問診の結果、レントゲン検査をオーダーします。検査結果が出るまでに小一時間。
その結果を見て血液検査を追加します。検査結果が出るまでにさらに小一時間。
こんな調子だと診察が終わる頃には、誇張ではなく、日が暮れてしまいます。

融通の利く医師であれば患者さんの入れ替わりなどのちょっとした合間に、待っている患者さんたちのカルテに目を通します。
問診するまでもなく検査が必要である事が明らかな患者さんがいれば、先に検査をオーダーします。
問診に時間がかかりそうな患者さんの場合は逆に問診途中に検査を入れて問診時間を小間切れにします。

「○○先生の外来はいつもいっぱいで朝一番に受付しても診察が終わるのは2時3時になる」
という話をよく聞きます。
本当に忙しいのか、要領が悪いだけなのか、忙しい人こそよく見極める必要があります。(2011年10月7日)

(3)

そう言えば勤務医時代を思い出します。

平日の午後、手術日なのに予定手術が入っていない事があります。
そういう日に外科医は普段できない書類仕事を片付けたり、受け持ち患者のカルテをゆっくり見直したりして、ある意味のんびり過ごします。
終業時間が来て、さあ今日は早く帰れる、と思った時、内科医から「虫垂炎疑いの患者がいるので、手術が必要かどうか診て欲しい」との要請の電話が入ります。
診察すると明らかに手術が必要な状況です。
外科医はおそるおそる尋ねます。
その患者がいつ内科を受診したのか、と。
そうして絶対に聞きたくない答えを聞くのです。
「午前中の外来で」
何と外科に回ってくるまでに6時間以上経過しています。
外科医ががっくりくるのはこういう時です。

問診と触診で右下腹部の痛みがはっきりすればすぐ外科に回して欲しいのです。
検査の段取りは外科サイドで考えるから、余計な検査に時間をかけずにすぐ回して欲しいのです。
予診票に「右下腹部痛」とあれば、問診をする事なく外科に回してもいいのです。

外科への紹介が午前中に行われていれば、手術はスタッフが充実した午後の時間帯に余裕をもって行えるのです。
内科医が判断を躊躇すると手術は手薄な夜間にせざるをえなくなります。
多少融通が利かなくても丁寧に診てくれる医師がいい、という考え方もあります。
しかしそれも程度問題です。
要領の悪い医師にかかるというのは、あなたの時間を無駄にするだけではありません。
あなたの命も削っているという事を憶えておいた方がいいと思います。 (2011年10月14日)

繰り返しになりますが、あなたが病院で割かなければならないのは以下の時間です。

1)病院に行くまでの時間
2)受付から診察までの時間
3)検査までの時間
4)検査の結果が出るまでの時間
5)診断について説明を受けて、必要な薬を処方されて診察が完結するまでの時間
6)薬を受け取るまでの時間
7)会計が終わるまでの時間
8)病院から帰るまでの時間

さて、5)に関してです。

こんな事を言う内科の教授がいました。

「風邪をひいたから風邪薬を出してくれ」と言う患者がいるが、風邪かどうかを決めるのは医者であって患者ではない。
薬だけ欲しいのなら薬局に行け! と追い返してやった。

医学生を相手に、診察に対する心構えと医術に携わる誇りを植えつけるために聞かせる話としては、面白いかもしれません。
しかし現実にはどうでしょうか?
たとえばあなたが、午後から大切な会議があるのでその間だけでも咳を抑えたい、と思って病院に行ったとします。
さっきの教授先生なら咳の原因を調べるためにレントゲンを取り、アレルギーの検査をして、3時間後にようやく「なるほど確かに風邪のようだ」という結論に至り、そこからさらに「ただの風邪だから薬なんか必要ない、栄養を摂って寝ておけば治る」とあなたを診察室から追い出す事でしょう。

大学病院なら許されるかもしれません。
咳がひどいので近所のクリニックに行き、薬をもらって1週間様子を見たけれどもよくならない、レントゲンではよく分からないが風邪以外の重大な病気ではないだろうか?
大学病院とはそういう人のための病院ですから。
そこではきっちりと検査をして、仮に「やっぱり風邪ですね」と言われればそれはそれでありがたい事です。

しかし「ちょっと風邪っぽい」という症状でかかった病院でこれをやられるとたまったものではありません。
時間もかかる。費用だって項目によってはアレルギーの検査も1万円近くします。
病院の形態によってそこに求められるものはそれぞれ異なります。
かかりつけの病院には、「絶対的に間違いのない診断力と最新式の検査機器」よりも「あなたの健康にまつわる諸問題に対して適切な判断を下してくれる」総合力こそが求められると思うのです。(2011年10月17日)

薬の話を後回しにして、次に会計までの時間について考えましょう。

今ではほとんどの医療機関が電子カルテを採用しています。
診察が終わり、スタッフが診療内容をコンピュータに打ち込めばすぐ診察料がはじき出されます。

医師本人が入力すれば時間は最短ですみます。おそらく5分以内で会計は終了するでしょう。
受付スタッフが入力するところではもう少し時間がかかります。
単科の診療所で診療内容がある程度パターン化されているところであれば10分以内。
複数の医師が診療を担当して処方内容や検査項目の組み合わせがそれぞれ異なる場合だとちょっとややこしいので10分ではすまないでしょう。
総合病院になるとさらに複雑になりますので会計に20分はかかるものと覚悟しておくべきでしょう。

5分から20分の幅、これ自体は大した時間ではありません。
しかし人はついつい診察が終了すればすぐ帰れるものと思いこんでその後の予定を立ててしまうものです。
忙しい人は特に、会計時間まで頭に入れてスケジュールを調整した方がいいと思います。 (2011年10月19日)

さあ最後は一番問題となる「薬」です。

薬の受け取り方に二通りあるのは、みなさんご存知の通りです。
病院で直接薬を受け取る「院内処方」と、処方箋だけ受け取って、薬局で処方箋と引き換えに薬を受け取る「院外処方」です。
患者の立場からすると「院内処方」の方が時間も費用も節約できて誰がどう考えても便利です。それなのに多くの病院が「院外処方」を選択しているのには理由があります。
まず薬の価格はほとんど納入価レベルに定められているので、病院は薬をどれだけたくさん出しても利益が出ないようになっています。一方処方箋の値段は高めに設定されています。在庫のスペースや管理の手間を考えると「院外処方」の方が楽だし儲かるのです。
どうしてこういう仕組みができあがったのでしょうか?(2011年10月21日)

これは膨れ上がる医療費を抑えるために考えられた仕組みです。
薬をどれだけ出しても儲からないのであれば医者は最低限の薬しか出さないでしょう。
実際、医者が処方箋にどれだけ薬を書きこんでも、診療報酬は「処方箋1枚あたりいくら」です。
たくさん薬を処方しても手間がかかるだけで全然儲けにつながりません。医者は本当に必要な薬しか出さなくなるでしょう。
院外処方制度に切り替わっていけば薬漬け医療が改善され、さらには医療費が抑えられるはず

……と、かつての厚生省のお役人は考えたのです。

しかしよくよく考えてみればこれはとても失礼な考え方です。
つまり「医者は金儲けのために不必要な薬を出している」という前提に基づいているのですから。
よく当時の医者たちが怒らなかったものです。

結果はどうだったでしょうか。
医療費が全く抑制されなかったのはみなさんご存知の通りです。
厚生省発案の壮大な社会実験は「医者は金儲けの事ばかり考えているわけではなさそうだ」という結論に至ったわけです。

想定と反する結論が出たのですからとっとと仕組みを戻せばいいと思うのですが、調剤薬局はこの流れに沿って人員も設備も増やしてきています。
彼らにしても突然梯子をはずされると困ってしまいます。
かくして思いつきで制度を変えてみたものの、進むに進めず、退くに退けず、医療費は膨らみ続ける一方、という事態に陥っているわけです。(2011年10月24日)

しかし医療体制のあるべき姿や保健行政の行く末についての議論はここでは置いておきましょう。
政策の誘導によって「院外処方」の仕組みを採用している病院の方が多くなっている、その現実にどう対応するべきか。ここではその事をまず考えたいと思います。
「院外処方」のメリットは、薬手帳を発行してくれる事、薬についての情報をプリントしてくれる事、それから医師以外の第三者から薬についての説明を受けられる事、以上3点です。
このメリットが、「手間と費用が余分にかかる」というデメリットを上回る人は「院外処方」の病院を選ぶべきです。
かつて薬の副作用で苦しんだ経験があるので医師だけではなく薬剤師からも詳しい説明を聞きたい、そういう人は「院外処方」を選びましょう。
循環器科にもかかり整形外科にも通い心療内科にも通院している、そういう複数の病院からたくさん薬をもらっている人は薬手帳を発行してもらった方が薬のチェックが簡単です。
下痢の症状で来られた患者さんの話をよくよく聞いてみると3つの病院からそれぞれ下剤が処方されていた、などという事は決して珍しくありません。薬手帳があればそういう重複処方は防げます。
転勤族で、行きつけの病院が短期間で変わってしまう、そういう人も院外処方の方が便利です。

めったに病院にかかる事がない人がちょっとした不調で病院にかかる時、そういう場合は「院内」か「院外」かにこだわる必要はないと思います。
ただ、病気についての説明と薬についての説明は、違う人から受けた方が頭の中で整理しやすいかもしれません。
もし何か慢性疾患が見つかって長期の通院が必要になったら、その時にあらためて「院内」「院外」について考えたのでいいと思います。

しかし何年も同じ薬を飲み続けていて、検査も定期的に受けていて、健康上何も困っていない、そういう人は「院外処方」のために手間と費用を余分にかける必要は全くありません。(2011年10月26日)

他人の印象で病院を評価するのは難しいです。

風邪でもほとんどの場合は「どんどんひどくなる増悪期」と「日に日にましになる回復期」を経て1週間もすれば治ります。
よくあるのが、ひどい風邪で何軒か病院を回ったけれど、どこの治療も効果がなかった。
それがあの病院の薬を飲んだら翌日には嘘のように治った。だからあの医者は名医だ! というような話です。
断言します。
それは名医なのではなく、たまたま回復期に受診しただけです。
さらに「前の病院でどんな検査をして、どう診断されて、どういう薬を出されたか」という情報は医師にとって最高の診断材料です。
「後医は名医」と言われるゆえんです。
あとに診た医師は圧倒的に有利なのです。
ですから病院をあちこち渡り歩いている人の情報は、実は見当違いの事が多いです。

病院の雰囲気は大切です。
その点に関しては口コミは参考になります。
しかし「腕がいい」とか「有名」とかの評判はあてになりません。

激しい腹痛で大病院にかかったとします。
検査をして胃潰瘍やその他の重大な病気ではないと判明した時点で、往々にして大病院の医師は患者に対する興味を失います。
「どこにも異常がないから治療の必要はありません」とぴしゃりと言われたりします。
開業医では逆です。
「現実にある症状をどうやって抑えるか」が開業医の役割です。
名医が放り出した病人を治さないといけないのです。
いい医師とは最終的にはあなたと相性のいい医師だと思います。
重大な病気をかかえてから相性のいい医師を探すのは大変です。

風邪でも腹痛でもあるいはインフルエンザの予防注射でも、そういう機会を利用して一度かかりつけ候補病院を偵察しておくのがいいかもしれません。 (2011年10月28日)